少し前のこと。
7月のまだ梅雨が明けるまえの大学。
実技系科目の対面授業の再開が認められて、
半年ぶりに構内に足を踏み入れた。
人の気配はなく、鳥や虫の声がやけに大きく聞こえる。
緑は鬱蒼と茂り、湿気を帯びてむせかえるようだった。
ここで学生たちがお昼を食べたり、友達と話したり、
思い思いに過ごしていたのが、
もう遠い昔のようだなあ、
と思った次の瞬間、
うっ、と涙がこみあげてきて、驚いた。
この日はじめて、PCの画面上ではなく生で会えた学生と、
「この歴史的なできごとのただ中で
自分が何を思い、どんな気持ちなのか
書き留めておくといいかもしれないね。」
と話したのを思い出して、
この時に感じたことを残しておくことにする。
はたしてその学生からは
「書いてはいないけれど僕はいま、
本を読んでいます。
カントの哲学書です。」と、
予想を遥かに超える答えが帰ってきたのだった。